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東京高等裁判所 昭和44年(ネ)1781号 判決

控訴人

志村為治

被控訴人

東京トヨペツト株式会社

ほか一名

主文

控訴人の控訴を棄却する。

控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人らは控訴人に対し、各金三、三八七、五八八円およびうち金三、二八七、五八八円に対する昭和四二年一月二八日以降完済に至るまで年五分の金員の支払をせよ。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決および仮執行の宣言を求め、被控訴代理人らは、主文第一項と同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張、証拠の提出援用認否は、次に付加するほかは、原判決の事実欄に記載のとおりであるから、これを引用する。

控訴代理人は、

一  控訴人は信号を無視して道路を横断したことはない。道路横断の際対面信号は青であつた。また控訴人の自転車が燈火をつけていなかつたとしても、現場は外燈で明るく、右燈火をつけていなかつたことは、事故には関係しない。

二  本件事故は被控訴会社の社員所有の自動車を被控訴会社の業務上の利益のため顧客に貸与したために起きたものであり、しかも、貸与後四日目に起きたのであるから、被控訴会社は運行利益はもちろん運行支配をも有していたものである。なお、自動車登録原簿によると、右自動車の使用の本拠の位置は事故の当時、東京都港区芝高輪南町七番地(被控訴会社の旧住所)となつており、いわゆる強制保険の契約者も被控訴会社である。したがつて被控訴会社は同車の保有者であり運行供用者である。

三  原判決四枚目表五行目の「七か月間」以下同六行目の終りまでを削除し、ここに新たに、「昭和四二年一月二七日より昭和四五年五月二七日まで四〇か月間休業し、その間右手数料相当金一か月四五、〇〇〇円合計一八〇万円の休業損害を受けた。また、控訴人は、後遺症として自動車損害賠償保障法に定める第一〇級と診断されたが、その生涯の逸失利益は六三五、六八八円(労働能力喪失率〇・二七、控訴人の一か年逸失利益一か月四五、〇〇〇円×〇・二七=一二、一五〇円、一か年一四五、八〇〇円、稼働年数は控訴人は昭和四五年五月現在七一才であるから四年四か月、ホフマン係数四・三六で計算)であり、控訴人は同額の損害を受けた。」を加え、同四枚目表一〇行目の「九〇万円」を「一二〇万円」と訂正し、同裏二行目の終りに「これは自動車損害賠償保障法に定める後遺症の第一〇級に相当する。」を加え、同三行目の「(四)損害の填補」の前に「(三の二)弁護士費用一〇万円」を加え、同七行目の「原告は」から一〇行目の終りまでを削除し、ここに新たに、「そこで、控訴人は金三、三八七、五八八円およびうち金三、二八七、五八八円(弁護士費用を除いた額)に対する本件事故の日の翌日である昭和四二年一月二八日から支払いずみに至るまで民法所定年五分の遅延損害金の支払いを求める。」を加える。

被控訴人中沢の訴訟代理人は、控訴人主張の右損害を争うと主張した。

〔証拠関係略〕

理由

当裁判所は、控訴人の本訴請求を理由がないと判断するが、その理由の詳細は、次に付加訂正するほかは、原判決の理由欄に記載のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決八枚目裏六行目の「第二号証」の次に「当審の証人小松康雄の証言」、同行目の「原告本人」の次に「(第一、二審、ただし、いずれも一部)」、同九枚目裏一〇行目の「第四号証」の次に「ならびに当審の証人市川弘毅の証言」を各加え、同一〇枚目一行目の「本件自動車を、」の次に「代金月賦払いで」を加え、同表四行目の「使用していた。」とあるを「使用しており、そして、被控訴会社から右に必要なガソリンの一部が毎月現物で支給されていた。」と、訂正する。

二  同一〇枚目裏五行目から一一枚目表五行目までの(2)の全文を削除し、ここに新たに「(2)ところで、所有権留保の特約を付して自動車を代金月賦払いにより売り渡した者は、特段の事情のないかぎり、自動車を買主に引き渡しその使用に委ねた以上、自動車損害賠償保障法三条にいう「自己のために自動車を運行の用に供する者」にあたらないといわなければならない(最高裁判所昭和四五年(オ)第八八五号、同四六年一月二六日第三小法廷判決、民集二五巻一号一二六頁)。しかし、本件においては、右に認定した事実によれば、訴外橋本は本件自動車を被控訴会社の担当業務の遂行のために使用し、その消費ガソリンの一部を被控訴会社が負担していたのであるから、なお被控訴会社としては本件自動車に対する運行支配権を有し、かつ、その運行による利益が被控訴会社に帰属していたものというべきであり、右最高裁判決にいう特段の事情があるものとして、被控訴会社は、かりに訴外橋本が事故を起こしたとすれば、運行供用者責任を免れない。しかし、訴外橋本は自分の判断で一〇日間程の約束で無償で訴外関東自動車株式会社に本件自動車を貸与してその使用に委ね、同会社は、これを被控訴人中沢に専属的に供与して同人に使用させていたのであるからこの間被控訴会社としては右自動車を管理することができず、運行支配権も運行による利益の帰属をも失つたものというべきである。したがつて、被控訴会社としては、遅くも右自動車の被控訴人中沢へ引渡しがなされた時点をもつて運行供用者責任を負わなくなつたものといわなければならない。」を加える。

三  原判決の一二枚目表五行目ないし六行目の「軽いとはいえず、その割合は五分五分」とあるを「重く、その割合は六分四分」と訂正し、同一一行目の「ところで、」から同裏四行目の「超えることはない、」までを「控訴人主張の前記(二)消極損害についてみるに、〔証拠略〕によれば、控訴人は、本田啓蔵から日給一、五〇〇円を支給されてその経営する貴金属商の外交をし、また外交の仕事のないときは貴金属研磨を手伝つていたものであり、そのいずれかを選んで就労することのできる状態にあつたのであり、そして、控訴人が本件事故のためこのような仕事に就くことができなかつたのは、昭和四二年九月三〇日頃までで、その後は従前の仕事に復帰して、従前どおりの収入を得ることができる状態にあつたことが認められる。この認定に反する右控訴本人尋問の結果は右認定に供した証拠に照らして措信できない。そして〔証拠略〕によれば、昭和四一年一一月から同四二年一月までの三月間の控訴人の平均月収額は金三八、五〇〇円であるから、控訴人の事故当時の月収は同額であると認めるのが相当である。控訴人が本件事故のため就労することのできなかつたのは、昭和四二年九月三〇日頃までであつたことは、前記のとおりであるから、その間の休業しなければならなかつたことによる得べかりし利益は金三〇八、〇〇〇円(38,500円×8か月)である。控訴人は本件事故により労働者災害保険一〇級の九に相当する左足関節の著しい機能障害を被つたと主張してこれによる損害陪償を請求するが、控訴人は前記のように昭和四二年一〇月ころ以降は事故前の仕事に復帰して従前どおりの収入を得ることができる状態にあつたのであるから、労働能力減退により損害を被つたものとして賠償を請求し得ないものである。のみならず、控訴人に左足関節機能障害の後遺症の生じていることは、〔証拠略〕より認めることができるが、右障害が著しい機能障害にあたるものとは認めることができない〔証拠略〕。そうすると、右後遺症による労働能力減退率は〔証拠略〕により認められる控訴人の一下肢一・五センチメートル短縮の後遺症と合せても一〇〇分の二〇程度と認めるのが相当である。したがつて、消極的損害の額は三〇八、〇〇〇円と四〇二、八六四円(38.500×0.2×12×4.36)との合計額七一〇、八六四円を出ないものと認められる。」と改め、同一二枚目裏七行目の「原告本人尋問の結果」の次に「(第一、二審)」を加え、同裏一一行目の「田畑中央病院」を「田端中央病院」と改め、同一三枚目表四行目の「前記過失」の次に「事故の態様」を加え、同六行目の「五〇万円」を「四〇万円」と改め、同七行目から一一行目までを削除し、この部分に「そうだとすると、控訴人の本件事故により被つた損害額は、仮に積極損害が控訴人主張のとおり六五一、八〇〇円と認められるとしても右消極損害の合計額一、三六二、六六四円の四割に当る五四五、〇六五円と慰藉料四〇万円との合計金九四五、〇六五円を出ないのであり、控訴人の損害はすべて強制保険金一〇〇万円で弁済を受けたことになり、残る損害額は皆無であるから、控訴人の被控訴人中沢に対する請求は、理由がない。(なお、弁護士費用については、これを認めるべき証拠がないのみならず、控訴人の請求が理由がない以上、これを同被控訴人に請求し得ないものというべきである。)そしてまた、控訴人の被控訴会社に対する請求の理由のないことも前記のとおりであるが、仮に被控訴会社が運行供用者にあたるとしても、控訴人において被控訴人中沢に対して請求できる損害がないのであるから、その理由のないことも明らかである。」を加える。

結局控訴人の請求を棄却した原判決は相当であり、本件控訴は理由がない。よつて、民訴法三八四条一項、九五条、八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 位野木益雄 鰍沢健三 鈴木重信)

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